
筑元豊次さん
/居酒屋とよ
立ち飲み屋台のイメージを一新。日商70万円を超える墓場の横のマグロ売りの異名をもつ居酒屋とよ。お客を楽しませる全力投球のおもてなし、90gあるインドマグロの中トロが900円、大トロが1200円、最高級の新鮮なウニやイクラがごそっと山盛りされるうにくらが2600円(あまりに量が多かったので、うにいくら半分というメニューも登場これが1300円)、この商品力はすごい。思う存分おいしいマグロをこの店で食べたーい!
「いらっしゃい」、居酒屋とよの店主、トヨさんこと筑元豊次さんは、お客が来店すると、あたりいちめんに響く声で迎える。何度か来店されたお客であれば「○○さん、いらっしゃい」と名前を呼んで応対する。同じ「いらっしゃい」の言葉にも、いろいろな気持ちが込められる。トヨさんの声は、体をはってお客をもてなそうとの気迫が込められている。
「どのようなお客さんにも尽くし、よろこんで帰っていただくのが、ぼくの役目。マグロひとつ食べにきてくれるのでも立派なお客さんです」と、トヨさんはいう。
1日二百数十人から三百数十人が16時30分から21時30分の間に殺到し、料理はトヨさんひとりで調理する。息つく間もないほどの作業をしながら接客をするのだからすごい。いかもお客の名前をよく覚えている。
「晩、眠られへんとき、もろうた名刺を声出して覚えるようにしています。名前覚えたお客さんからは予約がはいります」
立ち飲み屋台であっても、接待の予約電話が入る。むろん立ち飲みであるから、席の予約はできないが、料理の注文は受ける。接待の場として使われるときなどは「マグロの部位でも希少価値があるホホ肉とか、市場でまぶしいほどの活きがいいものを買ってきます」と、トヨさん。
立ち飲み屋台といえば、中高年の労働者の溜まり場というのが相場。事実、いまもほとんどがそうだ。しかし、居酒屋とよにいるお客は、ネクタイをした若いサラリーマンから中高年の幹部。OLも多い。最近ではファミリー客まで来店する。ともかく、トヨさんの元気な声に迎えられ、一歩踏み込むやいなや、独自の空間に包まれ、また快さに浸る。居酒屋とよは、これまでの屋台の立ち飲み居酒屋のイメージを一新してしまったのだ。
居酒屋とよの商品といえば、何といってもインドマグロ。このインドマグロの中トロが、分厚く名刺大に切られたものが5切れどっさと皿に載せられ提供される。約90gで900円。実際に食べてみて、その味に舌を巻くお客は、なぜ立ち飲み屋台で、こんなに旨い高級マグロが食べられるのかと。元気なおもてなしとこの味に驚き、この時点で、お客はすっかりトヨさんのファンになってしまっている。
マグロにも種類はいろいろあるが、とよで使うインドマグロは120〜130kgあり、高級すし店でもかなりランクの上の店で使うもの。これを丸ごと買いで水産業者と年間契約する。金額にして3000万円になる。1日に1頭の8分の3を使う。その日に使う凍結されたマグロは袋に入れられ水で解凍する。
インドマグロは、南半球のオーストラリアやニュージーランド沖で主に捕れ、すぐに船内凍結される。で、日本で流通するときはほとんど冷凍品である。
「うちのインドマグロは、口の中で脂分が溶けて旨味が口の中に広がります。 この品質と価格は他店では出せない。中トロ、大トロは赤字。赤身はべた。マグロだけやったら、商売にならない」とトヨさんは、あっさり手の内を明かす。しかし、商売は損して得とれだ。マグロの中トロ、大トロでは赤字が出ても、酢の物、ウニ、イクラ、うなぎの蒲焼で利益を出すという。しかし手抜きされた商品はひとつもない。うなぎの蒲焼、マグロのたたきを調理するとき、ガスバーナーに火をつけてボーボーと音をたてながら焼き上げる。この演出で、旨さが倍加する。
トヨさんは素材の仕入れに決して手を抜かない。インドマグロといっても、上質のものとそうでないものは当然ある。だから「品質は、よく調べます。しかしうちの商品ではずれたものはありません。まな板の前で一生懸命働いている店の親方を業者も裏切るようなことはしません」。逆にインドマグロの中トロとメニュー表に書いてはいても、実際にメバチマグロの中トロを出して、お客はわからないだろうとたかをくくっている経営者は論外である。
氷が詰められたケースに冷やされたビールを、関西ではドブヅケと呼ぶが、これがよく冷える。お客はセルフで大ビンをケースから取り上げテーブルで飲む。ここのスーパードライは飛ぶように売れる。夏場は400本前後売れる。またトヨさんの生まれ故郷である鹿児島県奄美の喜界島の黒糖焼酎が昨年導入以来、よく売れる。喜界島酒造の黒糖焼酎でアルコール度は16度。銘柄名は「とよ」。720mlで1200円。ビールと同じケースに無造作に冷やされた「とよ」は1日平均20本以上売れる。
1日平均350人の来客に提供する料理はトヨさん1人で作る。しかもお客と当意即妙の会話のやり取りをしながら調理する。獅子奮迅の仕事をしながら「仕込みは大変ですけど、営業してからはレクレーションです。」とトヨさんがいえば、お客は「ほんと?じゃ、料金はただ?」ときくと、「うそ」と答える。こうした場を盛り上げる言葉がぽんぽん出てくる。むろん、この間にも手を休めることはない。
「お客は調理の手元が見えたら安心する」とトヨさんは話すが、お客の心理をとことん熟知している。
女性客が増えたのは水洗式導入後
さきほど、女性客が多いと書いたが、増えてきたのは、簡易式トイレを汲み取り式から完全水洗式に変えた94年からだという。同時期に食器洗浄機も導入。生ものを扱うので、まな板、厨房設備、食器、床は徹底して洗浄する。まな板は週1回かんなで削るほどで、1年間に2枚使い切ってしまう。「屋台だからこそ、清潔にする」との考えが徹底されている。
居酒屋とよの、心臓部は1台の軽トラック。調理台、冷凍・冷蔵ストッカーの機能をあわせ持ち、イクラ・ウニ・うなぎの蒲焼をディスプレイし、お客が利用するカウンターにもなる。むろん、早朝、トヨさんがこの軽トラックを運転して市場まで走る。
店主は、人の3倍働くをモットーにトヨさんは先頭きって猛烈に働く。
「まず体を動かしたあとについてくるのが金や」ともいう。しかし猛烈経営者にありがちな、あとは黙って付いてこい式の働かせ方を従業員に強いてはいない。むしろ逆で、「店員さんに助けてもろて店はやっていかれる。親方は、店員さんに使われているくらいがいい。店員さんはお客さんに反感をかうようなことは絶対にしてはいけない。同じように親方は店員さんに負担をかけ反発をされないようにしていかなければいけません。仲よう楽しくやっていきたいです」と、人一倍気を使う。
2000年3月には無線オーダーシステムをリース契約で導入。これによって注文の間違えが起こらず、売上げ管理が格段に向上した。毎月のリース料の支払いが8万円かかるが、逆に税理士の支払いが年間60万円削減された。これによって税務署が税務申告を信用してくれるようになったという。「税金はがっちり取られるけど、税金払うのは男の勲章やとおもうとります」という。居酒屋とよの7〜10月の日商は70万円を超える。年商は前年度より1000万円伸び今期1億1000万円の見込み。営業時間は16時30分から22時まで、定休日は日・月・木曜の3日。平均客単価は2500円。
トヨさんが1993年11月、この店を開業するのにかけた費用は200万円。その個人事業が10年を経て関西のみならず、首都圏の居酒屋・料飲店に多大な影響を与えている。
チマエゥケ
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